【読書録】「神話の法則」のキャラクター・アーキタイプを元型論と一緒にまとめてみた

※当サイトは、アフィリエイト広告を利用しています

『神話の法則』とは

J. キャンベル(神話学者)は古今東西の神話を収集し、英雄譚には一定の法則性があることに気付いた。[1]
それをC.ボグラー(ハリウッドのストーリー開発コンサルタント)が書き手向けにまとめたのが、今回の本『The writer’s journey: mythic structure for writers』(邦題:『神話の法則 夢を語る技術』)。

キャラクター論

『神話の法則』は

  •  前半の「キャラクター・アーキタイプ」(キャラクター論)
  •  後半の「物語の12段階」(プロット論)

に分かれているのだが、なぜかネット上では「物語の12段階」についてのみ語られていることが多い。
しかし、前者がなければ後者は成立しない。これはキャラクターとプロットで一体の創作法である。
なので、「キャラクター・アーキタイプ」の方に光を当てつつ解説していこうと思う。

安かったので[2]原意をつかむため原書(英語版)で読んだため引用が英語多め。
日本語で概説を読みたい方はページ末の参考リンクを参照してください。

キャラクター・アーキタイプについて

キャラクター・アーキタイプとは、世界中の神話やお伽噺に共通して登場するキャラクター類型だ。
しかし、血液型占いの類ではない。シナリオにおける役回りを指している。

注意点

  • 主にヒーロー(主人公)を中心とした立ち回りだから、別の立場から見て役割が異なることがある
    • 誰かにとってのシャドウが他の誰かにとってのメンターだなんてことは十分にある
  • 兼役がある。
    • いわゆる「説教系主人公」はヒーローかつメンターであることが多い。
  • その役割に当てはまるのは作中に一人ずつでもない。
    • 複数人がヒーローになっていることもある。
  • 役割が変わることもある
    • ヒーローのシャドウ化(いわゆる闇堕ち)とか、
    • スレショルド・ガーディアンのアライ化(いわゆる光堕ち)はよくある話。
  • キャラクターはヒトや生き物でなくてもいい。
    • 「自然災害」がシャドウだったり、
    • 「異世界転生ものの冒頭で主人公に衝突するトラック」がヘラルドだったり。

ユングの元型論との関係

なぜ、どこの神話にも似たような役回りのキャラクターが登場するのか?
世界中の神話をかき集めて同じことを考えた男がいる。カール・G・ユング(心理学者・精神医学者)だ。

ユングはこうした人類普遍の原始的な類型に「元型 (アーキタイプ)」と名をつけた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%83%E5%9E%8B

ボグラーはキャンベルの類型にユング的元型をある程度関連づけている。
なのでユング的な元型論・精神分析の世界観を知っていた方が理解が深まるだろうと思われる。

以下、キャラクター・アーキタイプとユング心理学のアーキタイプとの関係をできるだけ拾いながら見ていく。

Hero (ヒーロー)

  • だいたい「主人公」と同義とみていい。
  • 彼は物語の中で
    • 成長し、
    • 積極的に行動し、
    • 犠牲を払う。
  • こうしたヒロイズムは、主人公だけでなく他のキャラクター・アーキタイプにもみられる。

ヒーローについての元型論的説明

In psychological terms, the archetype of the Hero represents what Freud called the ego — that part of the personality that separates from the mother, that considers itself distinct from the rest of the human race.

Christopher Vogler 『The writer’s journey: mythic structure for writers』 (Michael Wiese Productions, 2007) Kindle版 位置:25,342

要するにヒーローはフロイトのいう「エゴ(自我)」を象徴する。[3]

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E6%88%91

エゴの象徴たるヒーローは物語の中で何をしようとしているのか。
ユング的に言えば個性化過程を歩んでいると思われる。
自我は、未熟な自分を、一つの完全な自分として確立することを目指している。(だから欠落を埋めようとする)
物語とは、シャドウやアニマ・アニムスといった元型(それはしばしば他者として対立することになる)との対決・統合を通じてそれを成し遂げる旅、の暗喩だと言い換えることができるかもしれない。

個性化過程 (individuation process)
 C.G.ユングの心理学を理解するための概念です。 ユング心理学では、個性化過程とは個々の人間が未分化な無意識を発達させるプロセスをいいます。個性化過程では人格の本来の要素や精神的に未熟な要素、あるいは人生における経験が、時間と通して一つの

こういう個性化過程を象徴する元型として、ユングは「童子(童児)」元型を挙げている。[4]

「童児」は人間の最も強力で最も不可避的な衝動、すなわち自己自身を実現せんとする衝動を表わしている。意識が他のようでありうるという思い違いに常にとりつかれているのに対して、「童児」はあらゆる自然な本能の力で武装した、他のようではありえない・・・・・・・・・・・という性質である。 C.G.ユング 『続・元型論』 (紀伊國屋書店, 1983)。p.72

「童子」は一見弱く、見栄えのしない子供だが、両性性と神的な力を持っている。[5]
それは(今は未完成でも)将来的には自我が完成されることを先取りして見せている姿である。

Herald (ヘラルド)

  • 主人公のもとに試練やら冒険(非日常世界への誘い水)を運んでくる存在。

Threshold Guardian (スレショルド・ガーディアン)

  • 物語上、ヒーローに試練[6]を課す存在。
    • 日常→非日常への敷居をまたぐ地点、三幕構成でいうと第一幕と第二幕の間での試練をいうことが多い。
  • 精神的な傷や、変化を拒む心情のメタファーであるらしい。

Mentor (メンター)

  • 要するにヒーローの師匠役。
    • といっても日常世界について教える教師ではない。非日常へ踏み出す物語である以上、非日常について色々教えてくれる
    • なのでメンターは非日常に対処する方法についてはヒーローより優れている必要がある
  • およそヒーローに対し以下の役回りを持つ。
    1. 教え導く、判断の正しさを保証する
    2. 守る・助ける・贈り物を与える

アーサー王伝説におけるマーリンがよく代表として挙げられる。

メンターについての元型論的説明

無意識というのは基本的に危険な場所なので、旅を導く存在なしには進めない。
導き手になるのが「老賢者」の元型である。

老賢者 (wise old man)
 老賢者は、C.G.ユングの提唱した元型の一つです。父親元型であり、経験の知恵や理性、そして堅実な判断によって特徴づけられる深い哲学者といえます。 男性の心の働きにおいては、アニマと老賢者は父と娘のような関係を持ちます。女性にとって老賢者は

しかし老賢者も危険な無意識の産物である以上、老賢者に盲従し続けた先もまた破滅であったりする。
メンターがしばしば途中退場したり、拉致されたり、シャドウ化して役割を外れたりするのはこれを防ぐための作劇テクニックだと思われる。ヒーローが自分で離反してしまうのが一番ヒーローらしいが、それでもなおヒーローとメンターの基本方針は一致している必要があるので、なかなか難しい。

Ally (アライ)

  • 要するに仲間。味方になってくれる人。そのまんま。

Shadow (シャドウ)

  • ヒーローのテーゼに対して対立する存在、アンチテーゼを突き付けてくる存在
    • シャドウ自身もしばしばシャドウ自身にとってのヒーローであり、自分の正義を持っている。
  • ひらたく言えば敵のことなのだが、ときどき味方。
  • 対処可能なスレショルド・ガーディアンと違ってシャドウが敵になる場合は正真正銘の危険な敵。
  • おおよそアンチアゴニストと同じとみていいと思う。Wikipediaの「三幕構成」の頁に少し説明が載っている。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%B9%95%E6%A7%8B%E6%88%90#%E6%95%B5%E5%AF%BE%E8%80%85

シャドウについての元型論的説明

The Shadow can represent the power of repressed feelings. Deep trauma or guilt can fester when exiled to the darkness of the unconscious, and emotions hidden or denied can turn into something monstrous that wants to destroy us.

Christopher Vogler 『The writer’s journey: mythic structure for writers』 (Michael Wiese Productions, 2007) Kindle版 位置:41,507

シャドウは無意識に抑圧されたトラウマや罪の象徴なのだが、名前からしてユングの「影」元型に対応すると思われる。

「影」元型は、自我がまず対決し、統合しなくてはならない相手。
我々が普段無意識に押し込めている

  • 見たくない方の自分
  • そうならなかった方の自分
  • そうありたくない方の自分

である。

影 (Shadow)
 C.G.ユングがあげる元型のうちの一つです。 個人の意識によって生きられなかった半面、その個人が認容しがたい心的内容を意味します。影の内容となるもの 一般に光があたってできる影のように、その人の心の影の部分をさします。一般的な影が物に陰影

これを「影」というのは、光ある所に影ができるからでもあるが、その影がしばしば他人に映るからでもある。これを投影という。
人は抑圧している自分を他人の中に見たとき、無性にイライラして攻撃したくなってしまうものである。
「人のことバカって言う方がバカ」という格言や、「他人への罵倒はしばしばブーメランになる」というのは真理である。

このような抑圧された自分と向き合うのは危険なことで、ともすれば「影」の方が「私の方が本当の自分だ」といって意識の方を飲み込んでしまうことがある。
しかし、人が安定の取れた自分になるには、自分の影の部分と向き合わねばならない。

Trickster(トリックスター)

  • いたずらや変化をもたらす者。道化。
    • 代表的なものとしては北欧神話のロキなど
  • 物語に彩りを与えて読者を楽しませる
  • ヒーローとシャドウが拮抗してしまったときにパワーバランスを崩して話を前に転がす役目もある

トリックスターについての元型論的説明

これはそのまま「トリックスター」元型のことだと思われる。

トリックスター (trickster)
 C.G.ユングが提唱した元型の一つです。 神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる人物を指します。 文学などでトリックスターは、しばしばステレオタイプなキャラクターとして登場します。物語の中に

「トリックスター」は集合的な「影」と考えられている。
つまり、社会にとっての

  • 見たくない方の自分
  • そうならなかった方の自分
  • そうありたくない方の自分

ということになる。

一方で、

  • 一つの絶対的な・閉鎖的な正しさだけに支配された社会は弱く、価値観の違う外界と交流して益を得ることもできない
  • 社会が事実を犠牲にして統一性を保っているとき、その事実を誰かが言わないままだと、抑圧されたエネルギーとして貯まってしまう(しかもそのまま言ってしまうと酷い目にあう)

なので、「社会の枠から外れた存在」は、社会にとって必要な存在でもある。[7]

だからトリックスターは、

  • 内外の世界をつなぎ、
  • 善悪・賢愚の両面をもち、
  • 本当のことを角が立たないように言って価値を転倒させる。

Shapeshifter (シェイプシフター)

  • 主人公からみて常に立場の安定しない人物。
  • 姿や立場を変えてヒーローを幻惑する存在
    • 敵か味方か分からないことで物語に緊張感を与える

シェイプシフターについての元型論的説明

An important psychological purpose of the Shapeshifter archetype is to express the energy of the animus and anima, …(後略)

Christopher Vogler 『The writer’s journey: mythic structure for writers』 (Michael Wiese Productions, 2007) Kindle版 位置:38,885

つまりこの本では、シェイプシフターは「アニマ」・「アニムス」の力を表現していると言っているわけだが、
私は上のような説明には首をかしげている。というのもコロコロと変身をするのはむしろトリックスターっぽいからだ。

でも一応「アニマ」「アニムス」についてまとめておく。
ユングは、人がシャドウと対決した後でアニマ/アニムスと対決するのだと言っている。

アニマ (Anima)
 C.G.ユングの提唱した概念で、元型の一つです。 男性の心に無意識に潜む女性のイメージを意味します。 もともとは「風」「呼吸」「魂」「心」「生命」などを表すラテン語で、この男性形がアニムスです。 男性は対外的には、男性らしい態度(ペルソナ

たとえば「アニマ」について、よく「男の中の女のイメージ」と言われているが、男主人公に対して男のシェイプシフターがいるじゃないか、というのはそりゃそうだ。
しかしそもそもなぜ男にアニマ、女にアニムスなのか。ユング本人の言うことを聞いてみよう。

私でないもの、つまり男性的でないものは、女性的であるに決まっている。そして私でないものは私のものではなく、それゆえ私の外にあると感じられるので、アニマ像は通例女性に投影されるのである。

C.G.ユング 『元型論ー無意識の構造』 (紀伊國屋書店, 1982)。 p.68

要するに「自分ではないもの」がアニマとかアニムスなのであって、シェイプシフターも性別関係なく「ヒーローではないもの」でありさえすればいいのではないか、と思う。メンターはヒーローの導き手、シャドウはヒーローのダークサイドだが、シェイプシフターはヒーローの何かとは言えない。

物語の12段階(プロット論)に必須のキャラクター・アーキタイプ

キャラクターとプロットで一体の創作法であると言っておきながら物語の12段階(プロット論)についての紙幅がなくなってしまった。
よく纏めてくださっているサイト様の紹介にとどめたいと思う。

「メンターとの出会い」とかいう段階があることから分かる通り、いくつかのキャラクター・アーキタイプは12段階を組むときに必須である。[8]

  • ヒーロー
  • シャドウ
  • メンター

あたりが必須になるだろうか。だから、プロットがこんがらがったときは、キャラクターをいったんこの三者だけにしてみるとシンプルに理解することができる。

まとめ

もし、「神話の法則」の「物語の12段階」を使ってプロットを上手く書けなかったら、ユングの方まで遡ってキャラクターサイドから再考するのはどうだろうか。
少なくとも分析の役には立ったので、次回以降、物語分析を書いていきたい。
つづく。

この記事に出てきた本

新版あるみたいですね。

The Writer's Journey: Mythic Structure for Writers: 25th Anniversary
Originally an influential memo Vogler wrote for Walt Disney Animation executives regarding The Lion King, The Writer’s Journey details a twelve-stage, myth-insp...

まだ読んでませんが元ネタの方。

私の持っているのは旧版ですが、元型論も新版あります。

そしてユングは河合隼雄先生の本が分かりやすいですね。

参考リンク

キャラクター・アーキタイプと12段階を一緒に解説してくださってる記事。

『神話の法則』の三幕構成 | 漫画の描き方

童子元型について、日本語の資料があまり出てこないが、下記の記事はアマビエと関連付けていて分かりやすかったです。

第40講「童子元型およびトリックスター元型について」: ゆめのよどみに

脚注

  1. それを纏めたのが『The Hero with a Thousand Faces』(邦題:『千の顔を持つ英雄』)[]
  2. だって邦訳8000円くらいするじゃん……[]
  3. いきなりフロイトが出てくるが、これはユングの理論がフロイトのそれを一部継承しているから。[]
  4. 幼子イエスやギリシャ神話のヘラクレスが例として挙げられている。[]
  5. 神話のヘラクレスの例のとおり、ヒーローに両性性を与える手っ取り早い方法は「異性装」である。ヤマトタケルの女装とか『少女革命ウテナ』の男装とか。ただ最近は世の中の服装がジェンダーフリーになってきたので創作者は工夫を迫られているかもしれない[]
  6. といっても門の上に「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と書いてあるだけのケースもあるのだが[]
  7. 参照:河合隼雄 『影の現象学 (講談社学術文庫)』 (講談社, 1987)。第4章がトリックスターの詳説。[]
  8. シェイプシフターの出る幕が無いように見えるが、思うに一般的なハリウッド映画は2時間なので、なかなかアニマ・アニムスとの対決までやる尺が無いのだろう。[]
タイトルとURLをコピーしました