設定と成長はどういう関係がいいのか
世の中には「設定はいいが話はイマイチ面白くない」と評されるコンテンツがある。
逆に、「キャラクターは成長するが、皆似たり寄ったりで説得力がない」と評されるコンテンツもある。
一体、変わらない「設定」と変わってゆく「成長」は、どういう関係にあるのがベストだろう?
というわけで、アニメ3期まで観終わってファンブックも手に入れテンアゲなので、
『モブサイコ100』の面白いところを分析するシリーズを再開します。
今までのシリーズ:
一直線に成長するキャラは分かりやすい
3期の前に、一緒に楽しもうと思って夫にモブサイコ100のアニメを見せてみた。
それで夫にホワイティ編の感想を聴いてみたら「よく分からない」という。
ちょっと面食らったが、夫は頭のいい人なので、
「人間味を大切にする詐欺師」などという理屈の通らない話が苦手なのだろう。
では誰が推しなのか、と訊いてみたらテルだという。
なるほどね。
モブサイコ100の中で彼ほど「分かりやすい」キャラもいないだろう。
真っすぐに成長していくんだから。
キャラクターの成長管理はギャップ・マネジメントに似ている
一般に、成長というものは以下の順で計画するものだ。
- 現状認識
- ゴール設定
- ゴールと現状のギャップが埋まっているか、
チェックポイントを作ってチェックする
これをRPGのレベリングについて行う場合は、レベルデザインと呼ぶし、
マネジメントでやった場合は、ギャップ・マネジメントと呼ぶ。

キャラクターは多面体なので一人のキャラクターに複数の成長指標があってもいいが、
ある指標についてのキャラクターの成長というものをものすごく簡略化して書くと、こうなる。
こんな感じでチェックポイントごとに成長を見せる手法を
とりあえず「キャラクター・ギャップ・マネジメント」と名付けよう。
ストーリー上で再現する場合は以下の手順になるだろう。
最初に初期状態を見せる
読者には最初にキャラクターの初期状態を見せる。[1]
テルくんでいうと、裏番として暴れていたころの話である。
キャラクター本人に現状認識・ゴール設定させる
さて本人がその現状を把握して変わろうとしなければキャラクターの成長なんて無いわけだ。
とにかく何か事件[2]を起こして、本人に現状認識とゴール設定をさせる。
テルくんの場合は、モブくんに初めて会って「自信がない」ことを指摘されて凡人の自分を自覚するあたりがこのポイントにあたるだろう。
虚勢じゃない本当の自信をつけるところがゴールだ。
チェックポイントを作って進捗を見せる
何かしらチェックポイントを作って
を見せていく。
チェックポイントは登場のたびに作るチャンスがある[5]。
テルくんでいうと、こうなるだろうか。
改めて見るとすごく真っすぐ成長する子だなぁ。
| チェックポイント | 前回からの成長差分 | 伸びしろ |
|---|---|---|
| 大掃除編 | 過去の自分に向き合えている | まだ体面を気にしている |
| 第七支部編 | 身の丈を超える敵に向かっていける | まだモブくんに頼っている |
| 「爪」編 | 味方を連れてリーダーシップを取れる | 状況を一人だけで背負えるほどではない |
| 神樹編 | 誰より先に状況を解決しようとする | モブくんを超えてやろうという気概まではない |
ゴールへの到達
最後に、設定したゴールに到達したことを見せる。
このとき、伸びしろ部分がきっちり消えるようにする。
成長状態が固定してもう後戻りはないことをエピローグで見せれば、より効果的だろう。
テルくんでいうと、告白編でモブくんと戦って、
人を傷つけない超能力の使い方を見せてモブくんに「勝った」シーンがそれにあたる。
変わる部分と変わらない部分
一人のキャラクターに複数の成長指標があってもいいと言った。
では、どこを成長させるか? という問題がある。
一般論で言うと「テーマと関わりはあるが、周りのキャラとは被らない部分」だろうか。
テルが最後まで変わらなかった部分を見てみよう。
- 一人暮らしという家庭環境
- (良くも悪くも)ナチュラルに上から目線になる癖
- 独特のファッションセンス[6]
要は、(おそらくは他人から文句を言われる機会に恵まれなかったため)
自分を客観視することがあまり得意ではないということなのだろう。
おや? 成長の障壁になるものをあえて設定してある、ということになる。
成長には現状認識とゴール設定が必要だと言ったが、その現状認識にとって不利な要素だからだ。
しかし、実はそれこそ
- 他人の技を見て覚えるのが得意
という別の設定が生きてくる素地である。
トリックスター性もそれぞれ
『モブサイコ100』全体でのテルくんの役割としては、
多彩な(髪形や)技や意外な展開で物語に明るい華を添える「トリックスター」だろう。

トリックスターの特徴は「越境」。
善と悪、正と邪、この世と異界の境界線[7]を越える自在性。
二面性を持つという意味では『モブサイコ100』の主要人物の全員がトリックスター性を持つといっていい。
しかしその中でもテルがひときわトリックスターらしいのは、
敵の超能力者の技を自分のものにしてしまう(敵から味方へ、他者から自己へ)
という「越境性」によって強くなるという点で
他のキャラと明らかに区別できるからだ。
つまり、意識が外を向いているから、他人を見て学ぶことが得意だし、
現状認識は不得意でもゴール設定は得意ということ。
同じ頭脳イケメン枠の律と対比すると分かりやすい。
二人とも作中で成長するが、
テルの成長曲線がシンプルながら読者にとって見やすいのに対し、
律のそれは最後に明かされて後から軌跡が見える類のものである。
| テル | 律 | |
|---|---|---|
| 何によって成長するか | 他人を見て学ぶこと | 自分の中にあるものを理解すること |
| 現状認識 | 他人からショックを受けてする | 最初からやっている |
| ゴール | 最初から見えている | 最後の最後にわかる |
| 覚ラボに対して | 的確に指導して成長させる | 現状あるものの組み合わせで窮地を救う |
平たく言えば外向型と内向型の違いである。
それだけの違いで作中の行動には大きな差異を生み出せるのがわかる。
こうした違いをなぜ作るのだろうか?
読者も色々だから、キャラクターも色々である必要がある。
おそらく、テルがいなければメインキャラが内向型に偏りすぎの状態になる。
外向型の読者にとっては(それこそ)「よく分からない」話になっていただろう。
色んな読者に伝えるためには色んなキャラクターが必要なのだ。
設定は、成長の仕方を決めるもの
つまり、「何によって」成長するのか、
がキャラクターを差別化するということになる。
それは人の考え方や感じ方の特性だから、成長によって変化するものではない。
設定部分の話となる。
設定部分がキャラクターの成長の方向性を決めるならば、
そこを変えることで色々なキャラクターを作ることができるといえる。
設定のために成長があるのではなく、成長のために設定がある
読者はキャラクターの成長を楽しみにしてコンテンツを読む(はず)。
だから、大事なのは成長の方で、設定は期待値だと思う。
「成長のために設定がある」という関係が理想ではないかと思った。
成長の方向性が他と被らなければ、
項目だらけの設定用紙を頑張って全部埋める必要なんてなく、
プロットの段階までなら後からどんどん変えていってよいのだろう。
逆に綿密な設定用紙から変化に富んだ成長を産める人もいるのだと思う。
スタイルは人それぞれかな。
おそらくこのシリーズ、次の記事が最後です。がんばって書くぞ。
ファンブック読みましたが(分かりやすくする以外の理由で)過去記事を書き直す必要はなさそうです。よかった。
脚注
- このグラフだと初期値をプラスの状態にしている。初期値がマイナスでも別に構わないのだが、成長の可能性くらいは見せておかないと説得力がないだろう。[↩]
- いわゆるインサイティング・インシデントにあたるのかもしれない[↩]
- 差分がマイナスのことがあってもいいが、常にプラスの方が分かりやすくはある[↩]
- これがあると読者は今後の展開に期待できる[↩]
- 回想によってチェックポイントをクリアするという裏技もあるが[↩]
- ファンブックを読めばこれが読者の気のせいではないことがよくわかる[↩]
- 境界線についての話は次回に回そう。[↩]


